災害救助研究に欠かせない
AI・シミュレーション技術

情報科学部
情報科学科
教授 伊藤 暢浩
愛知工業大学
愛知県豊田市八草町八千草1247
TEL:0565-48-8177

大学院生だった1997年にロボカップ第1回大会にエントリーし、その後レスキューシミュレーションリーグに準備の段階から参加しました。以来、この競技への参加を軸に災害救助シミュレーションの研究を行い、現在は執行役員の立場で競技の運営にあたっています。

2006年頃から、シミュレーションリーグは「エージェント競技」と「仮想ロボット競技」に分かれました。私たちが参加する「エージェント競技」とは、大規模災害を想定したシミュレーション競技です。地震による建物の倒壊と火災を想定し、実在する都市を再現した地図上で、その都市における様々な条件の下、AI(人工知能)を持った複数のエージェント(救助隊・消防隊・道路警戒隊・通信センター)が連携しながら、火災を消火し、閉塞道路を啓開し、被災者を救出する能力を競います。この競技を通して「不確実性を考慮した最適経路探索」「エージェント間の情報交換」「通信障害発生時の情報共有」「エージェントの適性評価」など、様々な災害救助技術について研究・開発を行っています。

またシミュレーション技術を実用化する際には実証実験を行い、効果や安全性の確認を行うのが一般的ですが、大規模地震を再現するような実証実験は現実的に難しく、これが実用化の大きな壁になっています。そこで私たちが現在取り組んでいるのが、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を利用した災害救助体験システムの開発です。シミュレーションの世界を体感できるこのシステムは、一般の方に参加していただくことも可能で、消防訓練や防災イベントへの活用も視野に入れています。

AI、シミュレーションは決して万能ではありませんが、災害救助技術の開発には欠かせない手法です。またロボカップは、世界各国の研究者の情報交換の場として大きな役割を果たしており、災害問題の啓蒙にも貢献しています。世界中の人々が安心して暮らせる社会をめざして、今後もロボカップによる災害救助シミュレーション研究を推し進めていきます。

自動走行マルチステアリング
トレーラシステムの開発

理工学部
情報テクノロジー学科
教授 山口 博明
青山学院大学
神奈川県相模原市中央区淵野辺5-10-1
TEL:03-3409-0135(入学広報部)

我が国の国民生活・経済活動を支える社会基盤の一つである道路交通システムの安全性、効率性の向上は重要な課題であり、これに関わる技術の進歩を促すことは、将来継続して重点的に行われるべきであると考えられます。

平成25年に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」では、世界で最も安全な道路交通社会を実現するために、2020年代中における自動走行システムの試用開始が目標として掲げられています。

本研究室では、道路上における橋梁部材、鉄道車両、航空機の胴体・翼などの大型重量構造物の搬送の安全性、効率性の向上を目標として、「自動走行マルチステアリングトレーラシステムの開発」を行っております。本システムでは、複数の車輪にステアリング機能を導入することで操舵性を高め、従来走行が困難であった狭隘環境における搬送の自動化を目指しております。通常のトレーラシステムでは、ドライバーが一人で加速・操舵・制動を行います。一方、マルチステアリングトレーラシステムでは、ドライバーが一人で加速・複数の操舵・制動を行うことになります。走行環境内の障害物(道路上の信号機、中央分離帯、道路に隣接する建物、塀、電柱など)との干渉を避けるために、ドライバーが一人で複数の操舵を行うことは訓練を以てしても困難であると言えます。

このため、本システムでは、ドライバーが全く関与しない完全自動走行を前提としております。狭隘環境における走行では、障害物の間近で搬送対象物を移動させることから、2次元的な地図情報だけではなく障害物の3次元情報も含める地図情報高度化(ダイナミックマップ)が必要となります。3次元地図情報空間を障害物との干渉判定を通してグラフ構造化し、走行可能な経路を確率論的に自動探索する計算幾何学の研究も行っております。

未来の社会を本気で変える
国家プロジェクトのリーダー

未来ロボット技術研究センター 所長 古田 貴之
千葉工業大学
千葉県習志野市津田沼2-17-1
TEL:047-478-0222

”未来を変えるロボット技術“とは、どういうものだと思いますか?私は、基礎技術の開発や、そこから進んだ製品開発は、パズルのピースに過ぎないと考えています。それらがどう生活に役立ち、文化を創っていくのか、人々が具体的に体感できて初めてパズルは一つの絵として完成し、技術が本当に世の中を変えるのです。未来ロボット技術研究センターはこれまで、すべてのプロセスを実践してきました。

例えば基礎技術開発に関してですが、福島第一原子力発電所へ投入されたレスキューロボットの中で全階を踏破・探査を遂行できたのは我々のものだけであり、世界最高レベルのロボット開発力を証明しました。製品開発は既に複数の大手企業と連携し、量産事業化されています。現場の人々に考慮し、詳しい操縦マニュアルもこちらで作成しました。

最後のフェーズは、数々の国家プロジェクトへの参画です。オリンピックを見据えた「改革2020」プロジェクト「先端ロボット技術によるユニバーサル未来社会の実現」は、千葉工業大学が中心になって推進する一例です。街全体を知能化し、バーチャルで自分のすぐ隣をマラソンランナーが走るような臨場感を可能にし、知能化安全技術を搭載したモビリティを走らせます。全方向からの飛び出しに対応するこのモビリティは利用シーン別に変形するだけでなく、国籍を問わないユニバーサルを実現するための自動翻訳機能もついていて、移動+コミュニケーションツールの役割を果たすでしょう。

これからの大学は、総合的な技術力と企画力を併せ持つ人材を育成していくことが使命です。”ものづくり“に留まらず、社会実装レベルまで貢献できる”ものごとづくり“の研究者が求められているのです。枝葉の技術よりも高い目線、高い志を持って社会に対して貢献していく姿勢を大切にしたいと思います。

〈弱いロボット〉と人との
新たな共生関係を探る

人間・ロボット共生リサーチセンター センター長
岡田 美智男
豊橋技術科学大学
愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1 人間・ロボット共生リサーチセンター
TEL:0532-44-6886

人間・ロボット共生リサーチセンターでは、人とロボットとが共に暮らし、豊かな生活を享受できる社会を目指し、介護ロボットやサービスロボット、最先端のアシスト技術、コミュニケーション技術等の研究を行っています。

次世代介護ステーションのプロジェクトでは、移乗支援ロボット、歩行訓練ロボット、コミュニケーションロボットなどを含めた、介護・看護・リハビリをトータルに行う未来型の医療福祉施設の実現を目指しています。また、病院内回診ロボット〈テラピオ〉、豊橋市の観光案内ロボット、芝刈りロボット、農業ロボット、クルマとドライバーとをつなぐドライビングエージェントなど、他大学や関連企業との共同開発を積極的に行っています。

これらと並行して、人の手助けを上手に引き出し、ある目的を果たしてしまう〈弱いロボット〉の研究など、人とロボットとの新たな共生のあり方を探っています。例えば〈ゴミ箱ロボット〉は、自らはゴミを拾えず、そこでヨタヨタしているだけのもの。それでも、ロボットの気持ちを察した子どもたちが集まり、ゴミを拾ってあげ、何かと世話を焼く光景も見られます。ティッシュをくばろうとする〈アイ・ボーンズ〉は、どことなくモジモジ感が漂うロボット。ただ機械的にティッシュをくばるロボットよりも、多くの人の愛着や共感を引き出すようです。人の目を気にしながらたどたどしく話す〈トーキング・アリー〉は、その話しぶりに優しさも漂わせ、聞き手を上手に引き付けることができます。

ロボットに一方的に手助けしてもらうだけでなく、時にはロボットの手助けになれたり、一緒に何かを成し遂げることに喜びを感じることもあります。本来の人らしさは、こうした他との「支えつつ、支えられるような」互恵的な関わりから引き出されるものかもしれません。

かしこい眼を持つ
知能ロ ボットをめざして

工学部
機械システム工学科
副学部長・教授
橋本 学
中京大学
名古屋市昭和区八事本町101-2
入試センター TEL:052-835-7170

ロボットと人間がごく自然に共生する社会が、すぐそこまで来ています。当研究室では、その実現のためのキーテクノロジーである「知的センシング」を中心に、人間の喜怒哀楽の表情を読み取るコミュニケーションロボットや、「そこのコップを取ってきて」と簡単な命令を出すだけで、望み通りに動いてくれる生活支援ロボット、あるいは生産現場で「匠の技」を披露する熟達ロボットを研究・開発しています。

また、当研究室では「現場の課題にサイエンスで応える」をモットーに、産業界との接点を重視して活動しています。大学院生をはじめ、多くの学生たちが企業との連携研究や、他大学との共同プロジェクトに参画し、実践力を磨いています。その一例として、昨年から始まった知能ロボットの国際大会「アマゾンピッキングチャレンジ」には2年連続で出場し、好成績を収めることができました。世界トップレベルの大学や企業の研究者たちの取組みを目の当たりにすることは、学生たちにも良い刺激になっています。

実用ロボットの開発競争が世界規模で激化している中、わが国の産業競争力の強化と、これに貢献できる工学系人材の育成を目標にして、引き続き高度技術の研究を続けていきたいと思います。

未来志向型の
技術開発ができる人材の育成

工学部
ロボット理工学科
教授 大日方 五郎
中部大学
愛知県春日井市松本町1200
TEL:0568-51-5541

ソフトバンクのペッパーなど人とコミュニケーションできるロボットを誰でも簡単に手に入れることができるようになってきました。当研究室では、このようなロボットの活用のため、認知症患者のメンタルケアや自閉症児のコミュニケーションスキル教育にロボットを利用する研究を行っています。セラピーロボティクスの研究により、認知症患者への投薬量の減少や自閉症児教育の教員の代行など効果が検証されてきています。

また、下肢麻痺障がい者の歩行再建のためのリハビリテーションや日常生活での歩行アシストでは装着型のロボットの活躍が期待されています。利用者の意図を把握し、自然にトレーニングやアシストを行えるロボットの開発を行っています。

本学科では、レゴ社製のロボットキットやトヨタ自動車との共同研究に基づき実用化が期待されているROS搭載生活支援ロボット「HSR」を教材として導入しています。基礎から実践まできめ細かな教育を行い、ロボット共存社会を実現するための未来志向型の技術開発ができる質の高いロボットエンジニアを育成します。

細くしなやかな人工筋肉

工学院 教授 鈴森 康一
東京工業大学
東京工業大学 広報センター 東京都目黒区大岡山2-12-1
TEL:03-5734-2975

力強く、軽く、しなやかな人工筋肉は、次世代ロボットを実現するキーテクノロジーの一つです。私たちは、空気圧で動作する細い(外径2~5mm)人工筋肉を開発しました。原理は古くからあるのですが、材料や作り方を工夫して、従来に比べてはるかに細く高性能の人工筋肉を実現しました(従来は外径10~40mm)。同じ大きさの人間の筋肉と比べると、収縮量はほぼ同じ、最大収縮力は3~5倍です。

この研究成果を基に、大学発ベンチャー企業であるs-muscle(エスマスル)を設立し、アパレル、医療/介護等の専門家と協力して、新しいロボットや福祉機器への応用を進めています。

この筋肉を布状に編み込むことによって、柔らかく、着心地のよい介護福祉用サポートスーツが実現できます。また、細径人工筋を筋繊維として束ねることで、人体と同じ筋肉/骨格構造を作り上げることができます。すると、動きや力の特性が人間そっくりになってきます。今までの金属製のロボットとは異なる、人のようななめらかな動きのロボットができるのです。

「自動作曲システム」で
大ヒット曲を生み出したい

総合数理学部先端メディアサイエンス学科 教授 嵯峨山 茂樹
明治大学
明治大学 経営企画部広報課
TEL:03-3296-4082

芸術系は人間特有の創作活動であり、人工知能には手が出ない最後の聖域とされてきました。しかし、人間はタンパク質で作られたコンピュータであり、数学と統計学を駆使すれば何でもできるはずだと私は考えてきました。そこで音楽を徹底的に分析して、確率モデルによる自動作曲システム「Orpheus(オルフェウス)」を開発。研究用として、誰でも使えるようにネットで公開しています。

このシステムは、漢字かな混じりの歌詞を入力して、コード進行やリズムからロックやポップスなど音楽スタイルを選んでクリックするだけで、伴奏付きで合成音声が歌い出します。歌詞の雰囲気に似合った曲が流れてくるので驚かれる人も多く、NHKテレビで特集されたこともあります。すでにユーザーが作った曲が50万以上あるので、これを統計分析して、さらに人間の期待に応える高度な作曲能力にレベルアップしていきたい。音楽知識や楽器の演奏経験ゼロでも自分が想う楽曲が創作でき、その結果として大ヒット曲が生まれたら最高ですね。著作権という難問にも直面することになりますが(笑)。

身体の一部として
感じられるロボット身体化

名古屋大学大学院工学研究科
マイクロ・ナノシステム工学専攻
(工学部 機械・航空工学科)
教授 長谷川 泰久
名古屋大学
愛知県名古屋市千種区不老町 工学部総務課
TEL:052-789-3406

ロボット開発で重要となるキーワード「自律知能化」「情報端末化」「ネットワーク化」に、「ロボット身体化」を加え、ユーザーがロボットを自らの身体の一部と感じることが可能となるヒューマン・マシンインタフェース技術を刷新することにより次世代ロボットの研究・開発を進めております。

このロボット身体化技術により、人の優れた知能とロボットの得意とする機能が融合し、あらゆる人工物の操作性の向上や、低下した運動機能の補完や人の能力の拡張が可能となります。例えば、6本目の指に相当するロボットフィンガーを、あたかも自分の指のように操作可能なインタフェースの開発や、狭窄空間にて微細作業をする手術ロボットの操作性向上に取り組んでいます。

また、日常生活動作やQOLの向上を目指し、高齢者の歩行を支援しながら体力増進を行う歩行支援ロボットの研究を、医療研究機関と共に進めております。このロボットは、転倒を誘発する危険な姿勢を未然に防ぐ機能や、生体情報を計測しながら効果的に体力増進を行う機能を持っています。

すべての人を支援し、新しい未来を支える次世代ロボットの実現を目指しております。

コンピュータが小説を書く日

名古屋大学大学院工学研究科
電子情報システム専攻
(工学部 電気電子・情報工学科)
教授 佐藤 理史
名古屋大学
愛知県名古屋市千種区不老町 工学部総務課
TEL:052-789-3406

「ことば、コミュニケーション、知能」をキーワードに、自然言語処理と人工知能の研究を行っています。2013年からは、大学入試問題の自動解答を目指す「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」、短編小説の自動生成を目指す「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」という2つのグランドチャレンジに主要メンバーとして参加しています。

東ロボでは、4科目(国語現代文、数学、歴史、化学)の自動解答器の作成に取り組んでおり、記述式の問題にもチャレンジしています。ひとつの研究室で、複数の科目の研究を行うのは大変ですが、これにより、科目毎の特徴(必要な知識と能力)がはっきりと見えてきます。

小説の自動生成では、コンピュータを利用して作成した作品2編を第3回星新一賞に応募しました。コンピュータに意味の通る文章を作成させる技術は、まだ、十分には確立されていません。小説という自由度の高い文章の作成に挑戦することにより、日本語文章の自動生成技術を格段に進歩させることを目論んでいます。

多指ハンドロボットの研究
人の巧みさを目指して

理工学部
機械電子制御工学科
准教授 中島 明
南山大学
愛知県名古屋市昭和区山里町18 入試課
TEL:052-832-3013

工場の産業用ロボットは高速・精密に動きますが、その性能はまだ人間と大きな開きがあります。それは、手先の器用さです。ペンフィールドの脳地図(人体の各部位を司る皮質の割合)を立体化した脳内ホムンクルスでは、手が異常に大きくなります。これは手先動作がいかに多くの入出力情報処理を必要とするかを表しています。

ロボットの活躍が期待される介護・福祉、災害救助、宇宙などの極限環境では、工場よりもはるかに複雑な作業が求められます。これに対するアプローチの一つは、各作業に応じた専用の手先を備えた「千手観音ロボット」にしてしまうことですが、現実的ではありません。やはり、人間の手先の器用さを持つ「多指ハンドロボット」を研究・開発することは必要不可欠です。では「巧みさ」とは何を指しているのでしょうか。

手先の巧みさを表す特徴として、道具を把持、使用したりするときの「身体的な柔軟性」と、未知の作業を学習し高度な技能を獲得する「適応的な柔軟性」があります。身体的な柔軟性では、本来は動きの硬い関節のモーターにバネ特性を付加する柔軟制御により、物理特性を変化させて、周囲環境との接触に対して安定な把持を実現しています。

また、適応的な柔軟性として、情報数理モデルに基づいた人間のスキル学習を行っています。例えば、折り紙の動作は非常に複雑であり、紙のめくり上げ・折り返しだけでも、机との接触・離脱、指先位置の精妙な制御、指の押し付け力の調整など、様々なスキルが統合されています。スキルの一つ一つは身体的な柔軟性すなわち物理的な領域ですが、どのスキルを用いるか、組み合わせるかは人間の知的判断を表すような情報的な領域となります。物理的な運動スキルを情報モデルにより統合することで、トータルでの人間の巧みさの柔軟性の獲得を目指しています。

人の手で昆虫を作る
生物は最高のロボット

精密機械工学科 教授
マイクロ機能デバイス研究センター 責任者
内木場 文男
精密機械工学科 助教 齊藤 健
精密機械工学科 助手 髙藤 美泉
日本大学理工学部
東京都千代田区神田駿河台1-8-14
TEL:03-3259-0514(庶務課)
 

2012年1月、世界中の科学者が集うパリの国際学会でこのマイクロロボットが発表されました。全長わずか4mm、昆虫と同じ6本足で実際に歩行するのを目撃したある権威は『Japanese is crazy』と漏らしました。これは最高の褒め言葉です。

SFのようなロボットには様々な仕掛けがあります。脳にあたる部分は人工ニューラルネットワークが組み込まれています。人の脳波を分析して人工知能ICを開発しました。従来の機械加工では小さすぎる機構部品にはシリコンを微細加工する技術を適用しています。新たに設置したマイクロ機能デバイス研究センターのクリーンルームの装置を使います。そのものが伸縮する素材が筋肉になります。超小型の発電機は開発途中ですが、燃料を与え発電をします。昆虫が餌を捕食して栄養にすることが再現されます。

人の命を救う医療、健康を維持するためのヘルスケアが注目されています。マイクロロボットが目指すのは、人体内部を循環しながら検査、医療機関にデータを送り、必要ならば患部の処置をすることです。昆虫の群れの中にいれて、生態を利用して何か有益なものを作り出す応用もあります。蜂蜜、絹糸のような新産業の創出です。世界はいまIoT分野で激しい競争をしています。マイクロロボットはエッジと呼ばれるデータの収集に適します。人工知能でデータの重要性を判断してからホストに送ることもできます。そのほか未来志向の研究も実施しています。考えただけでロボットを動かすことのできる脳マシンインターフェース、コイン電池の代わりになるマイクロ発電機、皮膚のようにやわらかい電子部品、生物を手本にしたセンサーなどです。

日本大学理工学部では、様々な分野の研究者が、学生とともにAI、IoTなどの最先端の理論・技術開発・社会実装研究に挑み続けています。

遠隔操作での妊婦検査を
可能にするロボット

早稲田大学 理工学術院 教授 岩田 浩康
早稲田大学
広報室広報課 東京都新宿区戸塚町1-104
TEL:03-3202-5454
 

産科医不足が叫ばれる昨今、少子化も相まって、産科施設数は減少の一途を辿っています(昭和62年の9千施設から平成20年には約40%減)。東京周辺の医療過疎地域でも、施設数が少ないほど一つの病院に妊婦が集中するため、妊婦一人あたりの診察時間が短くなる一方で、待ち時間は長く、妊婦の負担は増大しています。

その問題解決に向け、岩田浩康教授の研究グループでは、遠隔操作で超音波検査を行える妊婦検査ロボットの開発に取り組んでいます。将来的には、妊婦が近くの診療所に行けば待ち時間無しでロボットによる超音波検査を受けられ、遠隔地の病院にいる医師の診断結果を携帯端末で見聞きできるようになるかもしれません。これまでに妊婦2名の協力を得て、超音波検査ロボットを妊婦腹部上で動かす世界初の試験にも成功しています(神奈川県の重点プロジェクトにも採択)。

妊婦検診の重要項目である超音波検査を遠隔でも実施可能なロボットシステムの開発により、病院での待ち時間の短縮や離島・僻地の妊婦検診等、今後様々な場面での活躍が期待されます。

人工知能と人間知能の協働による
新たな知能を目指して

情報学研究科
知能情報学専攻
教授 鹿島 久嗣
京都大学
京都大学産官学連携本部 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-5536

クイズ王やプロ棋士など、人類の中でも最高の知性を持った人間を人工知能が打ち負かしたというニュースが世間を賑わせています。第3次人工知能ブームといわれる現在のブームは、データから自動的に知識を学び予測を行う「機械学習」によって支えられています。機械学習は近年著しい発展を遂げ、高精度なビッグデータ分析の方法論が進展するとともに、深い専門知識が無くても利用できるツールが整備されつつあります。私達は、ヘルスケアや材料科学から、航空業界や自動車業界、あるいは人材マネジメントや教育まで、様々な分野で人工知能の先進的応用に取り組んでいます。

発展著しい人工知能技術ですが、一方でこれが将来的にあらゆる面で人間の知能を超えると考えるのはやや早計です。人工知能は目標が十分に明確でデータ化された領域において、その網羅性と処理速度によって我々を凌駕する力を発揮します。その一方で、曖昧で自由度の高い目標に対して、暗黙的な知識を結び付け創造性を発揮することが必要な領域はまだ苦手です。人工知能技術の応用においても、解くべき課題の設定や使用するツールの選定や調整は人間が行う必要があります。人工知能技術を使いこなせる技術者の養成は喫緊の課題であり、データサイエンティストと呼ばれる職種の需要が高まっています。

このような背景から私達は、実践を通じてスキルを磨く多人数参加型の教育プラットフォームの開発も行っています。興味深いことに、大勢の人間が分析に参加することで、プロを凌ぐ予測精度が達成でき、さらに彼らの予測を機械学習の予測に組み込むことで、精度が一層向上することが示されています。このことは人工知能と人間の知能の適切な組み合わせによる両者を超えた知能の実現可能性を示しており、知能研究の新しい方向性であると私達は考えています。